多くの人は「ウレタンは全部同じ」と言いますが、違います。ゴルフボールのカバーには 射出成形・熱可塑性ポリウレタン(TPU) と キャスト(熱硬化性)ウレタン の二系統があり、打感・スピン・耐久性・供給リスクを大きく分けます。
結論:TPUは一貫性・耐久・コストに優位、キャストはソフトな打感とグリーン周りの高スピン、ウェッジのスカッフ耐性に優位。短距離のコントロール重視はキャスト、価格とボリューム重視はTPU。
TPU vs キャスト:TPU=射出成形の熱可塑、キャスト=ホットキャストの熱硬化。
本ガイドでは両カバーの化学と製法を解きほぐし、3ピース/4ピースの最適構成と、ラベル名より重要なQC指標(OOR・中心度・圧縮分布など)を実務目線で提示します。
結論先出し:TPUとキャストは何がどう違い、誰に向く?
カバーはTPU(射出・熱可塑)とキャスト(注型・熱硬化)。TPUは一貫性とコスト、キャストはショートゲームのスピン・打感・耐スクラッチで優位です。
用途別の最適解を先に決め、後段で工程差・構造差・品質KPI・価格に分解します。USGA/R&Aの適合は素材を限定しないため、最終性能は配合設計・厚み・クリアコート・中間層設計と幾何再現性で決まります。
熱可塑性PUは再加熱成形が可能、熱硬化性PUは弾性・耐摩耗・耐ねじり・破断伸びで優位になりやすい傾向。ゴルフ用途では前者が一貫性/コスト、後者がショートゲームのスピン/ソフト打感/耐スクラッチに寄与します。
意思決定の足場(要約)
| 項目 | 仕様/効果 | 目安 | 注意 | 推奨 |
|---|---|---|---|---|
| 素材系 | TPU=射出/熱可塑、キャスト=注型/熱硬化 | 工程の起点 | 名称だけで優劣は決まらない | まず用途定義 |
| ショートゲーム/打感 | 一般にキャスト>TPU | ウェッジでの停まり | クリアコート/厚みで変動 | 実球試験 |
| 一貫性/コスト | TPU優位 | 量販/EC好適 | 高要求はキャスト検討 | チャネル分担 |
| リードタイム/MOQ | TPUが短・低 | 立上げ容易 | キャストは窓幅狭 | 代替仕様準備 |
| 適合 | 素材非依存 | USGA/R&A | 寸法・重量・初速・対称性 | 抜取監視 |
✔ 正しい理解 — PUは一括りではなく、TPUとキャストで工程と物性が異なる
TPUは射出でタクト短・窓幅広く、安定供給とコストに優位。キャストは熱硬化で薄肉・低硬度カバーを作りやすく、ショートゲームのスピン/ソフト打感/耐スクラッチに優位です。
✘ よくある誤解 — 「PU球=全部Tour級」「TPU=安いだけ/傷に弱い」
Tour人気はキャストが主流ですが、TPUでも高性能は可能。最終性能は配合設計・厚み・クリアコート・中間層設計と幾何再現性の整合で決まります。
用語と表記の統一ルール(仕様とパッケージ)
初出は「射出成形・熱可塑性ポリウレタン(TPU)」「キャスト(熱硬化性)ウレタン」。以降はTPUカバー/キャストウレタンに統一し、CPU表記は不可です。
誤表記は仕様解釈の齟齬や検索性低下を招きます。記事・仕様書・パッケージで最初に統一し、「熱可塑性/熱硬化性」「射出成形/キャスト(注型)」まで併記するのが基本です。
誤→正の置換表
| 誤記 | 正記 | 理由 | 注意 | 推奨 |
|---|---|---|---|---|
| CPUカバー | キャスト(熱硬化性)ウレタンカバー | CPUは別語義 | 英略を避ける | 和文+属性 |
| ウレタンカバー | キャスト…/射出成形・…(TPU) | 体系が不明 | 初出はフル表記 | 以降略可 |
| TPUウレタン | 熱可塑性ポリウレタン(TPU) | 重複・口語 | 仕様では正式語 | 括弧略記 |
仕様テンプレ
Cover(カバー):キャスト(熱硬化性)ウレタン(中文:浇注型热固性聚氨酯封套)
Cover(カバー):射出成形・熱可塑性ポリウレタン(TPU)(中文:注塑型热塑性聚氨酯封套)
脚注:本文では外層を「カバー」と表記し、工法は「射出成形/キャスト(注型)」、材料特性は「熱可塑性/熱硬化性」に統一します。
成形方法が手感・スピン・コストを左右するのはなぜ?
TPUは短タクトで窓幅広く一貫性とコストに優位。キャストは薄肉・低硬度化でショートゲームのスピンと打感に優位だが、良率とリードタイムに影響します。
工程差は性能・原価・在庫回転まで連鎖します。設計面では二層中間層とクリアコートでドライバー低回転×ショートゲームのスピン高回転を同時に狙う分離調整(デカップリング)が有効です。
| 項目 | 仕様/効果 | 目安 | 注意 | 推奨 |
|---|---|---|---|---|
| 薄肉・低硬度化 | キャスト優位 | ショートゲームのスピン↑ | 窓幅狭/歩留低下 | 量産前の長尺評価 |
| 一貫性/放量 | TPU優位 | 多腔射出 | クリアコートで補強 | 量販/EC適性 |
| 分離調整(デカップリング) | 二層中間層が有効 | 4層>3層 | 厚みと表面エネルギー | 目標回転域設定 |
| 耐スクラッチ | キャスト優位 | ウェッジで安定 | 仕上げ差の影響大 | 標準化試験 |
| EHS/CapEx | キャスト高負荷 | VOC/イソシアネート/PPE/許認可 | 停線リスク | 体制と費用計画 |
どちらを選ぶべき?用途・予算・MOQ・リードタイムでの分岐
競技でショートゲームと打感を最優先ならキャスト。量販・練習・企業ユースで供給と総コスト重視ならTPU。4層化が調整の近道です。
チャネル・紛失率・補給速度・在庫回転を含め最適点を決めます。4層は二層中間層によりドライバー低回転×ショートゲームのスピン高回転のチューニング幅が大きく、意思決定が速くなります。
| 用途/チャネル | 推奨素材 | 推奨層構成 | リードタイム/MOQ | コメント |
|---|---|---|---|---|
| 練習/量販/EC | TPU | 3層 or 4層 | 短/低 | 供給安定・補給容易 |
| 競技/上位小売 | キャスト | 4層 | 長/高 | 打感・ショートゲームの上限 |
| 企業ノベルティ | TPU | 3層 | 短/低 | 価格・印刷適性 |
| フラッグシップ | キャスト+TPU代替 | 4層 | 長/高 | 欠品リスク分散 |
ヘッドスピード帯(HS)×紛失率×チャネル(早見3×3)
| ヘッドスピード帯(HS) | 紛失率 | チャネル | 推奨 | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| 中〜高 | 低 | 競技/上位小売 | キャスト4層 | ショートゲームの上限/打感 |
| 中 | 中 | 量販/EC | TPU4層 | 分離調整が容易/供給安定 |
| 低〜中 | 高 | 練習/社贈 | TPU3層 | コスト/補給性 |
| 高 | 中 | 旗艦+代替 | キャスト4層+TPU4層 | 欠品対策 |
| 中 | 低 | 汎用SKU | TPU3〜4層 | バランス型 |
3層/4層・中間層の使い分け
3層は中間層が主旋鈕、4層は二層中間層でドライバー/ショートゲームを別ダイヤル化できます。キャストは薄肉ソフトでショートゲーム優位、TPUは一貫性・耐久・コストに優位です。
✔ 正しい理解 — 「Tour級=必ずキャスト」ではない
USGA/R&Aは素材を規定しません。Tour人気はキャストが主流ですが、TPUでも高性能は可能。要件(価格帯/MOQ/リードタイム/ショートゲーム要件)で選ぶのが合理的です。
✘ よくある誤解 — 素材名だけでプレー品質が決まる
実際はコア/中間層・厚み・クリアコート・幾何再現の総合。実球のウェッジ・スカッフ、エアキャノン、弾道試験で裏取りしましょう。
素材より重要な品質指標は?適合とCTQトップ8
USGA/R&Aの適合は寸法・重量・初速・対称性・飛距離が対象で素材は不問。量産の本質はCTQの再現性で、幾何と分布管理がスコア安定を左右します。
CTQ Top-8(まずここを揃える)
| 項目 | なぜ重要 | 指標/目安 | 下限/管理 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 直径/真円度(OOR) | 速度/回転/直進性 | OOR ≤ 0.006 in | SPC | 温調測定 |
| 中心度/カバー厚均一 | 弾道のばらつき | Cpk ≥ 1.33 | CT/破壊混用 | ロット毎 |
| ディンプル複製 | 風中安定 | 深さ±0.002 in | 塗装後再測 | 金型維持 |
| 圧縮分布 | 速度/打感 | 批内σ ≤ 3 pt | 23±2°C | 連番管理 |
| COR曲線(多速点) | 距離/規制 | 125/150/160 ft/s | 温度ドリフト監視 | 曲線滑らかさ |
| 塗装密着/耐摩耗 | 外観寿命 | ASTM D3359 4B–5B | 落砂/擦過併用 | 仕上管理 |
| エアキャノン耐久 | 実戦寿命 | 中央値 70/40 回(175/200) | 10th確保 | 95%CI |
| ウェッジ・スカッフ・スコア | 摩擦/外観 | 平均 ≤ 2.0–2.5 | 同一条件比較 | 画像記録 |
附加(漏れを防ぐ2項目)
| 項目 | なぜ重要 | 指標/目安 |
|---|---|---|
| 重量 | 適合・打感 | ≤ 45.93 g |
| 追跡性 | 苦情削減 | ロットバーコード+留サンプル |
試験プロトコル(実務要点)
ウェッジ・スカッフ:統一ロフト/速度/球数で1–4段階評価+顕微写真。エアキャノン:175/200 ft/sの中央値と10thを指標化。塗装:ASTM D3359 4B–5B、落砂/擦過併用。全て温湿度条件を明記し、ロット追跡と紐付けます。
✔ 正しい理解 — 幾何・再現性は素材名よりスコアに効く
真円度/中心度/ディンプル複製と圧縮分布の再現が弾道の安定を左右します。素材は設計因子の一つであり、量産Cpkの監視が本質です。
✘ よくある誤解 — 名称の格だけで「良い球」になる
名称や層数より、工程能力・金型保全・塗装密着の管理が効きます。定点観測と写真記録を運用してください。
市場動向:日本/米国/中国OEMの実情と価格(2025年11月)
米国はキャストが主流、日本は中〜上位でTPU比率が高め。中国OEMはTPU主体で、価格・リードタイム・MOQは素材と層構成で変動します(2025年11月)。
中国OEMがTPUを主流にする理由(供給視点)
| 要因 | TPU(射出) | キャスト(注型) | 調達示唆 |
|---|---|---|---|
| 窓幅/良率 | 広/高 | 狭/課題 | 量販はTPUが堅実 |
| タクト | 短 | 長 | 在庫回転に影響 |
| CapEx/EHS | 低/容易 | 高/厳格 | 設備回収に時間 |
| ノウハウ | 人材多 | 蓄積希少 | 立上げ損失大 |
| 受注構成 | 分散/EC多 | 高端集中 | 二本立てが安全 |
価格レンジは2025年11月現在の参考値(EXW China、白球・2色以内印刷・標準塗装・4×3箱・MOQ3,000–5,000球、為替1 USD=¥153.363)。実見積は仕様/工場で上下します。
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3層 TPU:¥1,074–¥1,687/打
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3層 キャスト:¥1,687–¥2,761/打
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4層 TPU:¥1,380–¥2,147/打
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4層 キャスト:¥2,454–¥3,681/打
注:HS 9506.32(ゴルフボール)は日本関税率0%ですが、輸入消費税10%が課税されます。税率は制度改正等で変動する可能性があります。最新の通関実務に従ってください。
FAQ
ドライバーの吹け上がりを抑えつつグリーンで止めたい
4層×キャストが王道。次善は4層TPU+高表面エネルギーのクリアコートでショートゲームを補います。
ヘッドスピードや入射角により最適は変わりますが、二層中間層でドライバー低回転とショートゲームのスピン高回転を別ダイヤルで作れる4層が有利です。キャストは薄肉・低硬度カバーで摩擦を稼ぎやすく、停止距離を詰めやすい一方、TPUでもクリアコートと外層厚み設計でショートゲームを底上げ可能。重量・圧縮・ディンプルを揃えた試作で落下角とラン量を比較しましょう。
耐久と価格重視でラウンドも練習も兼用したい
TPUカバーの3層(または4層TPU)が総合バランスに優れ、補給のしやすさも含め現実解です。
TPUは射出で一貫性が高く、塗装・印刷の歩留まりも安定しやすいため、紛失率の高い環境でも総コストを抑えられます。ショートゲームはクリアコートや外層厚みで底上げ可能。まずTPUで最適域を探り、厳格なショートゲーム要件が出たらキャスト上位機とのA/Bで判断しましょう。
量販SKUの立上げでMOQ/リードタイム/補給安定を優先したい
TPU(3層 or 4層)が立上げ確度と供給安定で優位。リードタイムは短く、MOQも友好です。
量販やECは在庫回転・補給速度が売上直結。TPUはタクト短・良率安定で、色/ロゴ/圧縮のバリアント展開にも向きます。まず4層TPUで回転の分離調整(デカップリング)を作り、ショートゲームの上限が必要なSKUのみキャスト旗艦を併走。SKU役割をチャネル別に設計し、欠品時の代替導線を明記します。
競技想定のフラッグシップ仕様は?
4層×キャストを第一候補に。ただし良率・リードタイム変動に備え4層TPUの代替仕様を並走設計します。
キャストはショートゲームの上限・耐スクラッチで有利ですが、窓幅が狭く歩留まりやリードタイムの変動が出やすいのが実務リスク。試作段階から塗装密着・ウェッジ・スカッフ・エアキャノン耐久まで同時評価し、量産Cpkの見込みを固めます。需給ショック時に代替投入できる4層TPUを同時完成度で用意すると、販売計画が安定します。
USGA/R&Aの適合は素材で決まる?
決まりません。素材は不問で、寸法・重量・初速・対称性・飛距離が判断基準です。
適合リストは素材名を示しません。TPUでもキャストでも規定を満たせば競技使用可能。量産ロットのばらつきが合否に影響するため、直径・重量・初速の抜取監視を標準化し、ロット間の再現性を確保してください。
TPU=安い/傷つきやすいは事実?
一概ではありません。クリアコート・配合設計・カバー厚でTPUでもショートゲームや耐スクラッチは十分確保できます。
TPUは工程の窓幅が広く、一貫性に優れます。クリアコートの表面エネルギーや硬化条件、外層厚みでショートゲームのスピンや外観耐久は大きく変化。ウェッジ・スカッフの標準化試験(同一ヘッド/速度/球数)と顕微写真評価を採り入れ、素材先入観ではなくデータで選んでください。
3層と4層、スコア安定にはどちらが効く?
4層のデカップリング効果が効きやすい傾向。TPU/キャストどちらでも設計自由度が高いです。
初中級ではミス幅の縮小が要。4層はドライバー領域とショートゲーム領域を別ダイヤルで追い込めるため、合致点を見つけやすい構造です。まず4層TPUで最適域を探索し、必要に応じてキャスト版でショートゲームの上限を詰める二段構えが現実的です。
量産の品質監視は何を見ればよい?
直径/OOR・中心度・厚均一・圧縮分布・塗装密着・ウェッジ・スカッフ・エアキャノン耐久の7点を定点で監視します。
OOR≤0.006 in、中心度/厚均一Cpk≥1.33、圧縮の批内σ≤3 pt、塗装ASTM D3359 4B–5B、ウェッジ・スカッフ平均≤2.0–2.5、エアキャノン(175/200 ft/s)で中央値と下位10%を指標化。崩れた場合は工程・金型・塗装の3本柱から原因切り分けを行い、ロット隔離と是正を迅速に実施します。
まとめ:TPUとキャストの使い分け戦略
TPUは一貫性・供給・コスト、キャストはショートゲーム・打感・耐スクラッチ。4層の分離調整設計(デカップリング)と二本立てで品質と供給を両立します。
個人は使用環境と紛失率、法人/OEMはチャネル・MOQ・リードタイム・Cpkを軸に意思決定しましょう。まず4層TPUで最適域を確定し、上位SKUは4層キャストを併走。適合は素材非依存、CTQの再現性で品質を担保する——これが実務で失敗しない最短ルートです。
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