ゴルフボールのコンプレッションとは、所定の条件で荷重を加えたときの変形特性を数値化した指標です。一般に数値が低いほど変形しやすい傾向がありますが、測定方法はメーカーによって異なる場合があり、同じ数値でも硬さ・打感・実際の性能が同じとは限りません。
同じ「80」と表示されたゴルフボールでも、実際の打感が違うことがあります。そのため、「80だから柔らかい」「85だから別メーカーの80より硬い」と、数値だけで判断するのは適切ではありません。OEM調達でも、サンプルと量産品で打感が異なる場合は、コンプレッション値だけでは稟議や検収に使える基準へ落とし込みにくくなります。
市販球を選ぶ場合は、コンプレッションをヘッドスピードや打感とあわせ、候補を絞るための一条件として使います。OEM仕様ではさらに、測定器、測定対象、測定位置、温湿度条件までそろえて確認することが重要です。以下では、コンプレッションの意味、メーカー間比較、選び方、硬さ・打感との違い、OEM仕様への落とし込みを順に整理します。
ゴルフボールのコンプレッションとは何か?
コンプレッションは、所定の方法で荷重を加えた際のボールの変形特性を数値化した指標です。一般に低いほど変形しやすい傾向がありますが、硬さ・打感・飛距離を単独で決める数値ではありません。
最初に、コンプレッション、材料の硬度、打ったときの打感を分けて考える必要があります。この三つを同じ意味で扱うと、商品比較だけでなく、OEM仕様の確認でも判断基準が曖昧になります。
コンプレッション・硬度・打感を分けて読む
コンプレッションは、完成球やコアに所定の荷重を加えたときの変形特性を見る指標です。一般には数値が低いほど変形しやすく、高いほど変形しにくい傾向を示します。ただし、単純な「圧縮比」として理解すると、測定方法や測定対象の違いを見落としやすくなります。
一方、ショアD硬度は材料の押込み硬さを見る指標です。打感はさらに広く、コア、カバー、中間層、各層の厚み、打音、クラブとの衝突条件などが組み合わさって生じます。
そのため、「コンプレッション80」という表示だけでは、完成球の打感までは判断できません。OEM仕様では、完成球を測った値なのか、コアを測った値なのかを仕様書へ明記し、承認サンプルと対応させることが重要です。
2ピースと3ピースの構造差そのものは、2ピースと3ピースのゴルフボールの違いで整理しています。
✔ 正しい理解 — コンプレッションと打感は同じ指標ではありません
コンプレッションが近い球でも、カバー材、層構成、材料硬度、厚み、打音が異なれば、実際の打感が一致しない場合があります。
✘ よくある誤解 — 「低コンプレッションなら必ず柔らかい打感になる」
数値は圧縮特性の一部を示すもので、体感そのものではありません。測定対象と材料・構造を分けて確認する必要があります。
メーカーごとの数値はそのまま比較できる?
異なるメーカーの公称値は、測定器、測定対象、測定位置、温湿度調整、校正条件が一致しない限り、そのまま横比較できません。数値と測定条件を一組にし、同一測定系で比較することが基本です。
「A社は80、B社は85だからB社の方が硬い」と判断する前に、その二つの数値が同じ方法で得られたものかを確認する必要があります。
同一測定系のデータで平均値と分布を見る
確認するのは測定器の名称だけではありません。完成球かコアか、ポール部(Pole)/シーム部(Seam)などの測定位置、測定前のコンディショニング(温湿度調整)、機器の校正条件まで含めて比較します。
メーカーごとにコンプレッションの測定方法や使用機器が異なる場合があることは、Titleist公式「Golf Ball Compression」(英語)でも説明されています。ATTI系の測定も有用ですが、「ATTI」という名称だけで、すべてのメーカー値が同じ尺度になるわけではありません。
公称値だけを並べると、測定方法の違いを製品差と誤認するおそれがあります。
| 確認項目 | 差が出る条件 | 比較可能な範囲 | 判断上の注意 | 次の確認/証拠 |
|---|---|---|---|---|
| 測定対象 | 完成球/コア | 同一対象 | 異なる対象を混在させない | 仕様書 |
| 測定器 | ATTI系/その他 | 同一機器・方法 | 異なる測定系を単純換算しない | 型式・校正記録 |
| 測定位置 | ポール部/シーム部等 | 同一手順 | 位置ごとの差も残す | 測定手順 |
| 温湿度調整 | 温度・湿度・時間 | 同一条件 | 球温差を製品差としない | 試験条件記録 |
比較表には、コンプレッション値と測定条件を併記しておくと、補充発注やサプライヤー変更時にも前回条件と照合しやすくなります。
同一測定系の一例として、MyGolfSpy Japan「BALL LAB テスト方法」では、小売で3ダースを購入し、測定前に24時間以上温湿度を調整する試験方法を公開しています。現行方法の詳細は、MyGolfSpy「About MyGolfSpy Ball Lab Testing」(英語)でも確認できます。
同テストでは、70°F±2°F(約21.1℃±1.1℃)、相対湿度50%±3%を試験条件とし、OK Automation Model 55-Mを使用しています。各測定セッションの開始前に機器を再校正し、1球につきシーム部2点とポール部1点を測定して、その3点平均を個球のコンプレッション値としています。
これはMyGolfSpy独自の第三者測定条件であり、ゴルフボール業界の統一規格ではありません。重要なのは、この温湿度条件をそのままOEMの標準値として流用することではなく、同じ機器、同じ温湿度調整、同じ測定位置、同じ手順で比較するという考え方です。
MyGolfSpyの同一測定系による第三者テストでは、2025年Pro V1(英語)は36球の平均コンプレッションが92.5、範囲(最大値-最小値)が5.3ポイントでした。一方、2026年TP5(英語)は36球の平均が約92で、範囲は9.0ポイントでした。
つまり、平均値だけを見ると両モデルはほぼ同じ「92前後」ですが、サンプル内で確認された数値の広がりは異なります。これはブランドの優劣を示す比較ではなく、平均値が近くても、個球の分布まで同じとは限らないことを示す一例です。
なお、これらは第三者が市販品として購入した36球の測定結果であり、メーカー公称値やOEM工場の保証値、業界共通の受入基準を示すものではありません。OEMでは、対象製品ごとに合意した測定方法、測定条件、許容範囲を基準に確認します。
同じ球でもポール部とシーム部の数値差が目立つ場合は、平均値だけで判断せず、個球測定データと測定位置を確認する必要があります。
選定でヘッドスピードをどう使えばよい?
ヘッドスピードはコンプレッション候補を絞る一要素ですが、特定の速度に一つの数値を固定する方法は避けます。想定ユーザー、球速、スピン、キャリー、打感を同条件で比較して選定します。
「ヘッドスピード40m/sならコンプレッションはいくつか」という疑問は自然ですが、速度だけで固定値を決めると、コア、カバー、層構成などの設計差を取りこぼします。
固定値ではなく候補帯から同条件試打で絞る
選定では、最初に想定ユーザーと用途を決めます。そのうえでヘッドスピード帯を確認し、低・中・高の異なるコンプレッション帯から2~3候補へ絞ります。
次に、同じクラブ、同じ測定環境で試打し、ボール初速、スピン量、キャリー、左右のばらつきを記録します。短い距離では、着地後の止まり方と打感を別項目として確認します。
こうすると、「コンプレッション値は希望どおりだが弾道が安定しない」「ドライバーでは良いが、アプローチの止まり方が商品企画上の要求と合わない」といった差を把握しやすくなります。
DUNLOP GOLFING WORLD「ゴルフボールの基礎知識」でも、かつてはコンプレッションの大小がボールの硬さや適応ヘッドスピードを判断する目安として使われていたものの、材料や構造の進化によって一概には判断できなくなったと説明されています。
そのため、「40m/sなら必ず○○」「100mphなら必ず○○」という固定換算を業界共通の選定式として扱わず、ヘッドスピードを一次選別に使い、その後に実打結果で絞り込む方が適切です。
実際の飛距離性能は、ボール初速、打ち出し角、スピン量を同一条件で比較します。詳しい試験方法は、ゴルフボール OEM の飛距離はどう確認する?初速・打ち出し角・スピン量の試験条件で整理しています。
✔ 正しい理解 — 低コンプレッションだから必ず飛ぶわけではありません
飛距離はボール初速、打ち出し角、スピン、構造、ディンプルなどの組み合わせで変わります。コンプレッションは候補を絞る一要素です。
✘ よくある誤解 — 「ヘッドスピードだけで最適な数値が決まる」
ヘッドスピードは一次選別に使用し、最終的には同一条件の試打結果を比較することで選定の再現性を高めます。
同じコンプレッションでも打感が違うのはなぜ?
打感はコンプレッションだけでなく、カバー硬度、材料、厚み、中間層、コア設計、打音にも左右されます。「柔らかい球」を仕様化する場合は、主観表現を複数の確認項目へ分けます。
商品企画では「ソフトな打感」という表現が使われることがあります。しかし、この一語だけでは、製造側で何を調整し、量産後に何を確認すべきかが明確になりません。
カバー硬度・材料・層構成を別項目で確認する
コンプレッションは完成球またはコアの圧縮応答を見る指標です。一方、ショアD硬度は、材料に所定の条件で圧子を押し込んだ際の硬さを評価します。
ASTM D2240「Standard Test Method for Rubber Property—Durometer Hardness」(英語)では、デュロメータ硬度を所定条件下で測定する方法が定められており、測定結果は圧子や荷重条件などの影響を受けます。コンプレッションとショアD硬度は測定対象も意味も異なるため、両者を直接換算することはできません。
硬度値を仕様として使用する場合は、測定対象、測定位置、試験条件を明記します。
また、アイオノマー、TPU、キャストウレタンでは材料特性が異なります。さらにカバー厚、中間層、コア構造、打音が組み合わさるため、完成球のコンプレッションが近くても打感が一致するとは限りません。
「柔らかい」という要求を一つの数値へ置き換えると、サンプルと量産品の評価軸がずれる場合があります。
| 要素 | 確認方法 | 主に示す内容 | 単独では分からないこと | 次の確認/証拠 |
|---|---|---|---|---|
| コンプレッション | 同一圧縮試験 | 完成球・コアの変形特性 | 表面の打感 | 圧縮試験記録 |
| カバー硬度 | ショアD等 | 材料表面の硬さ | 完成球全体の性能 | 硬度試験条件 |
| カバー材 | 材料仕様 | 材料の種類 | 完成球の総合的な体感 | 材料仕様書 |
| 層構成・厚み | 断面・仕様確認 | 設計構成 | 実打時の総合性能 | 承認サンプル |
受入条件では、「コンプレッション80」や「Soft Feel」のような一項目だけで判断せず、材料、硬度、構造、承認サンプルを別項目として残すことが重要です。
承認サンプルと量産品で打感差が大きい場合は、コンプレッションだけを再測定して原因を特定せず、カバー材、硬度、層構成も照合します。複数の項目を分けて確認することで、どの設計要素に差があるのかを整理しやすくなります。
社内稟議や検収では、「柔らかく感じる」という主観表現を、圧縮試験記録、材料仕様、硬度試験条件、承認サンプルへ分解しておくと、担当者が変わっても同じ基準を共有しやすくなります。
OEM仕様でコンプレッションを固定する手順
OEM仕様では目標値だけを書かず、許容範囲、測定器、測定対象、位置、温湿度調整、校正、サンプル数、個球測定値、平均値・範囲、承認サンプル番号まで仕様書で管理します。
サンプルが良好でも、発注時に「コンプレッション80」だけを記載すると、量産品をどの方法で照合すべきかが不明確になります。ここでは、コンプレッションという一つの仕様項目に範囲を限定します。
目標値と測定条件を同じ仕様書へ記載する
まず、目標値と許容範囲を設定します。ただし、特定の「±3ポイント」や「±5ポイント」を業界共通基準として適用するのではなく、対象製品、使用する測定系、用途、サンプル評価結果に基づいて合意します。
次に、使用する測定器のメーカー・型式、完成球かコアかという測定対象、ポール部/シーム部などの測定位置、温湿度調整の条件、校正方法を仕様書へ記載します。
サンプリングでは、測定する球数を事前に定め、個球測定データを残します。そのうえで平均値、最小値、最大値、範囲(最大値-最小値)を確認すれば、「平均80」という一つの数字だけでは見えないばらつきも把握できます。
さらに、どのサンプルを基準に決定した仕様なのかを明確にするため、承認サンプル番号を記載します。コンプレッションという一つの仕様項目だけを管理する場合でも、目標値+測定条件+個球測定データ+承認サンプル番号までそろえることで、受入判定の根拠を共有しやすくなります。
仕様書へ落とし込む場合は、次のように記載すると、確認条件をまとめやすくなります。
コンプレッション値は目標値のみとせず、測定器、測定対象、測定位置、温湿度調整、校正方法、サンプル数、許容範囲および承認サンプル番号を併記するものとします。異なる測定系で得られた数値は直接比較しません。
重量・直径・コンプレッションを含む出荷検査、測定設備、校正記録、抽出方法、QCレポート全体の確認方法は、ゴルフボール OEM の品質検査とは?測定項目・機器・QC レポートの見方で詳しく整理しています。
また、承認サンプルと量産品の差、仕様書の版管理、材料・工程変更時の再承認については、ゴルフボール OEM でサンプルと量産品が違う?品質ズレを防ぐ方法で整理しています。本稿では、コンプレッションという一つの仕様値を比較し、発注条件へ落とし込む範囲までを扱います。
✔ 正しい理解 — 平均値が同じでも個球の分布が同じとは限りません
承認サンプルと量産品の平均コンプレッションが近くても、個球値の広がりや測定条件が異なれば、同じ状態とは判断できません。
✘ よくある誤解 — 「承認サンプルが80なら量産平均80で十分」
平均値に加え、個球測定データ、最小値、最大値、範囲、測定条件を照合し、事前に合意した許容範囲内でコンプレッションが再現されているかを確認します。
コンプレッション選定でよくある質問
低・高コンプレッション、ヘッドスピード、ATTI、規則適合など、選定時に確認しやすい論点を整理します。数値だけで結論を固定せず、測定方法とボール全体の設計を分けて理解することが重要です。
コンプレッションが低いとどうなりますか?
低コンプレッションは一般に荷重を受けた際に変形しやすい傾向がありますが、低いほど柔らかい、飛ぶ、高性能という意味ではありません。
実際の打感はカバー材、材料硬度、層構成、打音にも左右されます。飛距離についても、ボール初速、打ち出し角、スピン量との組み合わせで変わるため、コンプレッションだけでは評価できません。低コンプレッションは候補を整理する一つの分類として使い、最終的には実打結果を含めて判断します。
コンプレッションが高いとどうなりますか?
高コンプレッションは一般に荷重に対して変形しにくい傾向を示しますが、高ヘッドスピード向け、上級者専用という一律の分類にはなりません。
コア、カバー、中間層、ディンプルなどの設計が変われば、同じ高コンプレッションでも弾道や打感は異なります。「数値が高い=性能が高い」とは判断せず、想定ユーザーのヘッドスピード、弾道、ショートゲームでの結果まで分けて確認します。
ヘッドスピード40m/sなら何番を選べばよいですか?
ヘッドスピード40m/sだけで一つのコンプレッション値へ固定せず、異なる候補を同じ条件で試打し、実測結果から絞り込む方法が適しています。
40m/sは候補を絞るための有効な情報ですが、コンプレッション以外の構造や材料はモデルごとに異なります。2~3候補についてボール初速、スピン量、キャリー、左右のばらつきを比較し、短い距離では止まり方と打感も確認すると、用途との適合を判断しやすくなります。
ATTIの数値はメーカー共通ですか?
ATTI系はコンプレッション測定に用いられる体系の一つですが、すべてのメーカーが同じ機器、対象、位置、温湿度条件で測定しているとは限りません。
「ATTI 80」という表示だけでは比較条件が十分ではありません。完成球かコアか、ポール部とシーム部のどこを測ったか、測定前にどのような温湿度調整をしたか、機器をどの方法で校正したかまで確認し、異なる測定系の数値を単純に順位付けしないことが重要です。
コンプレッションはUSGA・R&Aの規則項目ですか?
コンプレッション自体は、競技適合性を判断する独立した規格値ではありません。OEMで管理するコンプレッション目標値と、ゴルフ規則への適合性は分けて確認します。
ゴルフボールの適合性には、重さ、大きさ、球体としての対称性、初速、標準総合距離などに関する規定があります。「コンプレッション90だから競技適合」「高い数値だから規則上高品質」とは判断できません。日本語の用具規則と適合球情報は、JGA「ゴルフ規則・用具」で確認できます。
メーカーが公称コンプレッションを公開していない場合はどう確認しますか?
公称コンプレッションが公開されていない場合は、第三者測定値をメーカー公式値として扱わず、打感、構造、材料、実打結果など公開されている情報と分けて確認します。
公称値を公開していない理由はメーカーや製品によって異なり、外部から一律に判断することはできません。実務では理由を推測するより、メーカー公称値と第三者測定値を区別して扱うことが重要です。
異なる測定方法で得られたコンプレッション値は、原則として同じ尺度の数値として横比較しません。参考情報として併記する場合は、メーカー公称値か第三者測定値かを明示し、測定元、測定器、測定対象、温湿度調整など確認できる条件も併記します。
コンプレッションだけで飛距離を比較できますか?
コンプレッションだけでは飛距離を比較できません。ボール初速、打ち出し角、スピン量、キャリーを、同じクラブ、同じ試験条件で確認する必要があります。
同じコンプレッションでも、コア配合、層構成、カバー、ディンプルが異なれば弾道は変わります。飛距離評価ではコンプレッション測定と弾道測定を分け、それぞれの数値を同一条件で記録する方が、採用理由を社内で説明しやすくなります。
まとめ|数値より測定条件と再現性をそろえる
コンプレッションはゴルフボール選定に役立つ指標ですが、単独で硬さ・打感・飛距離を決める数値ではありません。測定条件と個球データをそろえることで、商品選定からOEM仕様まで同じ基準で判断できます。
低コンプレッション、高コンプレッションという分類は候補を考える入口になります。ただし、メーカーが異なる数値をそのまま比較せず、測定器、測定対象、測定位置、温湿度調整、校正条件を先に確認することが基本です。
また、「柔らかい」という要求はコンプレッションだけに置き換えず、カバー硬度、材料、層構成、承認サンプルへ分けます。OEMではさらに、目標値、許容範囲、個球測定データ、平均値、最小値、最大値、範囲まで仕様書に残すことで、受入判定の根拠をそろえやすくなります。
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