B2Bの発注でまず整理すべきなのは、「どの場面で、どんな体験を届けたいか」です。
レンジやスクール、量販、競技、ギフト——用途が明確になれば、最適な構成は自然と収束します。
2ピースは稼働率と補充スピードで在庫を循環させやすく、3ピース(とくにウレタン)は止まりと打感で上代設定とレビュー評価を引き上げます。
本稿では、Cost per Use(1回あたり実効コスト) と 体験価値 を軸に、発注前の判断項目から検査・印刷までを実務のプロセスに落とし込みます。
B2Bでまず決めるのは「構造」ではなく「用途KPI」
KPI(重要業績評価指標)は、ロス率・在庫回転・レビュー評価・販促ROIなどの“現場で測れる数値”です。レンジ/量販/大会/ギフトごとに SLA(サービスレベル合意) を合わせて先に固定すれば、2ピース/3ピースの選定は“結果として”自然に定まります。
2ピースは稼働率と補充の速さで在庫回転を押し上げ、3ピース(とくにウレタン)は止まりと手触りで体験値→上代→粗利率のレバーになります。構造はスタート地点ではなく、KPIからの逆算で決まるゴールです。
理解しておきたいポイント — 価格ではなく Cost per Use(1回あたり実効コスト)
比較の基準は EXW ではなく到岸単価です。式:(到岸単価+印刷・梱包+欠陥/再塗装率×補正)÷ 想定使用回数。レンジ用途の 2 ピースは使用回数が伸び、Cost per Use(1回あたり実効コスト)が下がります。SKU はValue 80%/Premium 20%の二層で回転と上代の両立を図ります。
見落としがちな注意点
“高性能一本化”は在庫を重くします。レビューや上代で回収する場面(大会/ギフト)以外に 3 ピース(ウレタン)を広げすぎると、在庫回転と粗利率が崩れます。
Cost per Use と 体験価値で比べる(距離≠唯一解)
“飛ぶかどうか”よりも、Cost per Use(1回あたり実効コスト) と 体験価値 の積でROIを見ると、練習場/量販/大会/ギフトの最短解が明確になります。
【Cost per Use(1回あたり実効コスト)式】
(到岸単価+印刷・梱包+欠陥/再塗装率×補正) ÷ 期待使用回数
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例 1:2ピース(DDP 到岸 ¥180/球)、練習場で想定 8 回使用 → 約 ¥22.5/回
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例 2:3ピース ウレタン(DDP 到岸 ¥360/球)、大会ギフトで実質 1 回使用 → 約 ¥360/回(上代とレビューで回収)
練習やスクールではロスト/摩耗が支配的です。ここは耐久・段取り再現に強い 2 ピースが合理的。一方、VIP・競技・ギフトでは、3 ピース(ウレタン)の 50 yd 前後の制動感と柔らかな打感が体験と写真映えを高め、棚前訴求とレビュー単語の“質”を底上げします。
理解しておきたいポイント — 量産再現は Pad+トップコート、表現力は UV 直印+下地/UV クリア
Pad は 2 色以内・量産・耐摩耗で安定、UV は小ロット多色/写真向け。版/治具の保管・再現条件(温湿度、静電対策、治具シリアル)を仕様書化し、校正写真の再現手順を工程票に組み込みます。ウレタンは溶剤/下地/乾燥曲線に敏感です。
見落としがちな注意点
「UV は常に高付加価値」とは限りません。治具固定や下地不良で密着が落ち、百格 0–1 級を割るケースがあります。PP サンプルで白版/トラップ/オーバープリントを必ず確認してください。
シナリオ別テンプレ(レンジ・量販・大会・ギフト)
練習・スクールは耐久優先の 2 ピース、量販は手感バランスの 3 ピース(イオノマー)、大会・ギフトは体験を押し上げる 3 ピース(ウレタン)――この配分がB2Bでは最短で合意に至ります。
ヘッドスピード帯と想定ロス率を要件化し、在庫回転とレビューKPIを同じシートで管理すると設計が安定します。
| シナリオ | 基本構成(推奨) | 到岸単価の目安 | 在庫回転 | 上代レバー |
|---|---|---|---|---|
| レンジ/スクール | 2 ピース Surlyn | 低〜中 | 速い | 低〜中 |
| 量販/EC 定番 | 3 ピース Surlyn | 中 | 中 | 中 |
| 大会/ギフト | 3 ピース Urethane | 中〜高 | 遅い(計画仕入) | 高 |
カバー素材が作るROI:イオノマー = 稼働率/ウレタン = 上代
イオノマーは擦過・切れに強く段取り再現が高い“稼働率の素材”。ウレタンは短尺スピンと柔らかな触感で“上代と体験”を引き上げる素材です。
印刷/塗装では、イオノマーは Pad+トップコートで安定。ウレタンは 溶剤・下地・乾燥曲線 に敏感で、歩留まりと交期に直結します。SKU設計は、イオノマー中心で Value を回し、ピーク期のみウレタンの Premium を積む 80/20 の二層運用が堅実です。
発注前に決める 4 ステップ(KPI→構造→予算→SLA)
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用途KPI を定義:ロス率、在庫回転、レビュー目標、販促ROI。
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構造/カバー を仮決め:2P Surlyn / 3P Urethane など+圧縮レンジ、色数/印刷位置も同時に。
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予算 × 損耗率 を整合:単価より使用回数。Cost per Use(1回あたり実効コスト)で比較。
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MOQ・SLA を固定:ピーク想定で 分割出荷 と 色替え凍結 を初期合意。PPサンプル(量産前承認サンプル)承認後の変更は ECO(設変:Engineering Change Order) として管理。
地域別の“運用差”を見る:段取り・外観基準・補単速度
ここで言う「補単」は補充発注の略で、ピーク時の再手配リードを指します。
同一仕様でも中国はコスト/補単/多SKUに強く、日本は外観基準と安定運用に強い—— 1,000 球の目安は中国 10–20 日、日本 15–30 日です。
| 観点 | 中国 | 日本 |
|---|---|---|
| 到岸コスト | 低〜中 | 中〜高 |
| 補単スピード | 速い | 中 |
| 外観基準 | 標準〜やや厳 | 厳格 |
| 歩留まり感度(PU) | 高(再塗装影響) | 中〜高 |
| 多SKU運用 | 得意 | 得意(段取り重め) |
代表レンジの参考:2P Surlyn(中国 ¥75–150 / 日本 ¥135–240)、3P Surlyn(¥150–270 / ¥210–330)、3P Urethane(¥270–360 / ¥360–540)。為替 ±5% と PU 塗装良率 ±3% は再見積トリガーに設定します。
理解しておきたいポイント — AQL と写真基準は“運用できる数値”で固定
PP サンプル(量産前承認サンプル)は、治具・温湿度・打順を固定し、CT 目安:モデル別 PP 値 ± X、50 yd スピン:設計値 ± 公差など定量で合意。外観は写真基準を添付します。
見落としがちな注意点
工場標準のままでは解釈差が出ます。契約に是正優先順位(再塗装 → 減額 → 補単)、判定 TAT、連絡系統、ECO(設変:Engineering Change Order)の扱いまで記載して、量産条件の“勝手変更”を防ぎましょう。
印刷実装の意思決定(Pad/UV × 色数 × 量産再現)
量産再現と耐摩耗の観点では Pad+トップコート が既定路線、UV 直印 は“小ロット多色・写真表現”の切り札として限定運用が安定します。
版/治具の保管と再現条件(温湿度・静電対策・シリアル化)を仕様書に明記し、校正写真の再現手順を工程票化すると、色ブレや位置ズレの再発を抑えられます。
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Pad+トップコート:2 色以内/量産/耐摩耗。段取り再現が高く、AQL 合否が安定。
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UV 直印+下地/UV クリア:細線/写真/少量多色。治具固定・静電対策・下地選定が密着を左右。
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ウレタンの作法:百格 0–1 級+アルコール擦拭を承認基準に。温湿度/乾燥曲線の管理でにじみ/白化/割れを抑制。
検査票テンプレ:合否ラインを“運用できる数値”に
構造(層/同心度)・寸法/重量/対称・CT・50 yd スピン・密着・硬度・外観を AQL で定点化し、写真基準と救済優先順位(再塗装 → 減額 → 補単)を契約に明記します。
PP サンプル(量産前承認サンプル)の合否は、治具・温湿度・打順を統一し、CT 目安:モデル別の PP 値 ± X など“運用できる数値レンジ”で合意します。
| 検査カテゴリ | 運用できる数値レンジ(例) | 頻度 | 測定法 |
|---|---|---|---|
| CT/反発 | PP 値 ± 目標 X(案件定義) | 週次 | 反発計/CT ゲージ |
| 50 yd スピン | 設計値 ± 公差 | 月次 | ロボ/計測器 |
| 直径/重量/対称 | 規格内(USGA/R&A) | 受入/工程内 | デジタルゲージ/重量計 |
| 印刷密着 | 百格 0–1 級 | ロット毎 | 百格+アルコール |
| 外観ランク | 写真基準合致 | 全数外観+抽出 | 目視/標準板比較 |
是正フロー(契約記載)
不適合検出 → 一時隔離(LOT 隔離/原因仮説) → 是正(再塗装/減額/補単)
判定 TAT・連絡系統・代替供給 SLA も文書化し、再発防止は作業手順と温湿度管理へ落とし込みます。
Cost per Use で見た仕様別の運用プロファイル
比較軸を B2B 独自指標に置き換えると、案件ごとの最短解が見えます。
| 仕様 | Cost/Use 目安 | 想定ロス率 | 補単リード | 上代レバー |
|---|---|---|---|---|
| 2 ピース Surlyn | 低 | 高(現場次第) | 短 | 低〜中 |
| 3 ピース Surlyn | 中 | 中 | 中 | 中 |
| 3 ピース Urethane | 高(用途依存) | 低 | 長 | 高 |
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ミニケース:スクール運営
週 3 クラス/40 名 × 10 球/回の消費では、2 ピースの Pad 1–2 色に固定して段取りを標準化。Cost/Use を押し下げ、補単を 2 週タームで回すと在庫が安定します。 -
ミニケース:EC 上位 SKU
3 ピース Urethane+スリーブ箱+撮影プリセットで棚前訴求を強化。レビュー語彙テンプレ(打感/止まり/外観)を同梱して、初月 CVR と★数を底上げします。
物流 × Incoterms の意思決定マトリクス
期限・量・予算の 3 条件で輸送/取引条件を機械的に選ぶと迷いません。
| 期限/在庫 | 量 | 予算 | 推奨 |
|---|---|---|---|
| 最短納品 | 小〜中 | 余裕あり | DDP 空運 |
| 期日固定・中期 | 中〜大 | 通常 | FOB 海運(自社手配で最適化) |
| 初回検証 | 小 | 余裕あり | CIF 海運(港以降は買手段取り) |
CIF は港まで、通関/内陸配送は買手側。DDP 空運は関税/VAT 込みで確実だが高コスト。FOB 海運は最安だがリード長。販売開始日から逆算し、到岸単価(¥/球) と 在庫回転 の両立点を選びます。
どのケースで日本調達/中国調達が有利か
外観基準・協業重視 = 日本、コスト・短納期・多 SKU = 中国。目的が指す方向に素直に合わせます。
SKU 設計は Value 80%/Premium 20% の二層が運用しやすく、仕入と在庫資金の平準化に効きます。
補単の運用規則(閾値・リード・分割出荷)を SOP に落とし込むと、品切れリスクが急減します。
主要中国 OEM メーカー一覧(2025 年版)
| 工場名 | 所在地 | 主力構成 | MOQ |
|---|---|---|---|
| Hangzhou Grasbird | 浙江・杭州 | 2 ピース中心、3 ピースも可 | 3,000 球〜 |
| Ningbo Golfara | 浙江・寧波 | 2/3/4 ピース(含 PU) | 1,000 球〜 |
| MLG Sports | 福建・厦門 | 2/3 ピース(Surlyn/PU) | 2,000 球〜 |
| Shenzhen Xinjintian | 広東・深圳 | 自社金型・一貫生産 | 2,000 球〜 |
| Chengsheng Golf | 福建・厦門 | 2 ピース/3 ピース PU | 2,000 球〜 |
選定の視点をもう一段深掘りします。 同じ「3 ピース可」でも、得意は イオノマー系(距離/耐久) と ウレタン系(体験/上代) に分かれます。加えて、印刷・塗装の段取り再現、校正写真の一致度、再塗装の救済単価が実務差になります。以下の観点で各社を見てください。
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サンプル〜量産の時間軸
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標準サンプル(白球/無地):2 ピースで 3–5 営業日、3 ピースで 5–8 営業日が目安。
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PP サンプル(量産前承認サンプル):Pad 1–2 色で 5–7 営業日、UV 直印+下地/UV クリアで 7–10 営業日。
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繁忙期の変動:3–5 月、9–11 月はラインが詰まりやすく、+3–7 日を見込みます。
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FAQ
2 ピースと 3 ピースを同一案件で回しても良い?
SKU を Value 80%/Premium 20% に分け、価格帯の“階段”を作ると回転率と客単価の両立が容易です。基幹は 2 ピースで回し、上位体験を 3 ピース(とくにウレタン)で担保。棚前の比較軸を明確にし、PP の校正再現を確認してから量産移行します。
上代を引き上げたい時の最短施策は?
3 ピース Urethane+化粧箱/スリーブ+ Pantone 厳密管理。止まりと触感の差に外装と色再現の一致感を重ねると棚前訴求が強化。撮影/訴求文/レビュー導線をセット設計し、初月 CVR とレビュー件数を KPI に置きます。
再見積トリガーはどこまで明記する?
為替 ±5%、PU 塗装良率 ±3%、印刷の色数/位置変更、輸送モード変更を PO に明記。有効期限付き見積とペアで運用すると、後工程のブレを抑制できます。
UV 直印と Pad、どちらを選ぶべき?
量産再現と耐摩耗は Pad が堅実、少量多色や写真表現は UV が切り札。UV は必ず下地+ UV クリアを前提に、治具固定と静電対策を明記。PU カバーでは百格/アルコール基準のクリアを PP で確認し、条件変更は ECO として処理します。
まとめ
練習・低コスト・短納期は 2 ピース、制球・触感・ブランド体験は 3 ピース(Surlyn = 折衷/Urethane = ハイエンド)で設計します。実務では、KPI(重要業績評価指標) を明文化 → 構造/カバーを仮決め → Cost per Use(1回あたり実効コスト)と上代で収益式を検証 → SLA(サービスレベル合意)・AQL・写真基準・再見積トリガーを PO に添付。印刷は Pad 中心/UV は小ロット多色 に限定し、PP サンプル(量産前承認サンプル) → 同条件量産 の原則で安定供給を実現してください。
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